いじめデータを公立と私立で比較、いじめ認知率、警察通報率、解決率など。

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この記事は2016年11月16日に更新しました。
情報が古くなっている可能性があるのでご注意ください。

この記事の読了時間は約12分です。

いじめや自殺数は公立中学の方が私立中学よりも多いと橘玲(2013)「知的幸福の技術 自由な人生のための40の物語」で書かれていました。本書の中では具体的なデータは紹介されていなかったので統計を調べてみました。

参考【書評】「知的幸福の技術 自由な人生のための40の物語」

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「いじめや自殺は公立中学校>私立中学校」説

橘玲の意見

該当部分引用

生徒のいじめや自殺は公立の中学校で頻発し、私立中学ではほとんど起こらない。

location691「知的幸福の技術 自由な人生のための40の物語」

この発言の元となるデータは明らかにされず。

公立中学校でいじめ自殺が起きやすい理由

橘玲氏は公立でいじめ自殺が起きやすい原因として以下の2点を理由に挙げています。

  1. 【動機】公立中学校教師は公務員なので、いじめ解決に積極的でない(入学者が減っても関係ない)
  2. 【行動】公立中学校では学校側が生徒を退学処分にできない(該当生徒との関係が3年間続く)

この本で書かれていた要旨と同じことが以下のリンク先で書かれています(2012年の週刊プレイボーイに掲載)

参考いじめ自殺はなぜ公立中学で起こるのか? 週刊プレイボーイ連載(60) | 橘玲 公式サイト

「いじめや自殺は私立中学校>公立中学校」説

僕はどちらかというと私立中学校の方が陰湿ないじめが多いイメージがあります。堂本剛主演のいじめドラマ「人間・失格〜たとえばぼくが死んだら」を見ていたからかもしれません。

そもそも、いじめるような性根の腐った奴らは自分が退学になる可能性を考えていないので、それが私立で抑止力になるとは思いません。

いじめデータ(公立中学校 vs 私立中学校)

公立と私立のいじめデータを比較できる調査資料がありました。

参考「平成 27 年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(速報値)

文部科学省初等中等教育局児童生徒課が毎年実施しています。
平成27年度の調査結果(速報値)が平成28年10月27日(木)に公開されました。

生徒の自殺についても調査されていますが、学校側が自殺といじめの因果関係を否定することが多く、いじめ自殺についてはまともな数字が上がっていません。公立と私立の比較もされていなかったので、この記事では「公立と私立でいじめの数に違いはあるのか」という視点でまとめていきます。

ア.いじめ認知学校率の比較

学校総数に対するいじめを認知した学校数の比率が下記の表1の赤枠部分です。いじめ認知率という言葉がしっくりこない人はいじめ発生率と置き換えるとわかり易いかもしれません。

表1

結果

  • 小学校では公立で62.6%、私立で40.5%
  • 中学校では公立で73.7%、私立で48.5%
  • 高校では公立で54.1%、私立で40.8%

いじめの認知率が低い私立でも40%を超えるというのは驚きです。それほどいじめが常態化しているということなんでしょうか。

結論:いじめ認知率 公立>私立

小中高全てにおいて、私立よりも公立の方がいじめ認知学校率は高いという結果でした。

イ.いじめを認知した学校1校あたりの平均いじめ件数の比較

認知件数(C)を認知学校数(B)で割ると、いじめを認知した学校1校あたりの平均いじめ認知件数がわかります。上記の表では計算されていないので計算してみました。

結果

  • 小学校公立:149516÷12626=11.84
  • 小学校私立:912÷92=9.91
  • 中学校公立:56952÷7127=7.99
  • 中学校私立:2033÷384=5.29
  • 高校公立:9714÷2255=4.30
  • 高校私立:2928÷621=4.71

いじめを認知した学校1校あたりの平均いじめ認知件数は、小中高と成長するにつれて徐々に減っていっています。発達的な変化によるものなのか世代間差によるものなのかはこの調査だけでは不明です。

結論

小学校中学校では、私立よりも公立の方がいじめを認知した学校1校あたりの平均いじめ件数は多い(+約2〜2.7件)

高校では、公立よりも私立の方がいじめを認知した学校1校あたりの平均いじめ件数が多い(+約0.4件)

ウ.いじめを警察に相談・通報した学校率の比較

いじめを認知した学校がどれくらいの割合で警察に相談・通報したかという割合が下記表2の赤枠部分です。いじめの悪質さがわかる指標となります。

いじめでの警察通報率

表2

結果

  • 小学校では公立と私立に差がなくともに1.1%
  • 公立中学校は5%、私立中学校は1.6%
  • 公立高校は5.1%、私立中学校は2.1%

結論:公立中学高校の方が私立よりも通報・相談数割合が高い

小学校では公立と私立に差はない、対象生徒の年齢が幼いことによる教師の温情判断があるのか、いじめ自体が通報するほど悪質なものでないのかは不明。

公立中学・高校では、公立の方が私立よりも通報・相談数割合が高い(+約3%)。

中学校と高校で通報率の割合(公立:私立)に大きな変化はない。

いじめ統計データからの推論

ア・イ・ウのデータの結果と結論から考えられることは何か。

真逆の2つの推論が成り立つ。

推論1「公立中学校は私立よりもいじめ発生率・いじめ数が多く、悪質ないじめが多い」

調査データをそのまま解釈すると「公立中学校は私立よりもいじめ発生率(ア)・いじめ数(イ)が多く、悪質ないじめ(ウ)が多い」ということが言えます。

この推論は「いじめ認知率が低い=いじめの発生頻度が少ない」と解釈した時に導かれます。

橘玲氏の意見を補強するデータとなりました(私立中学校ではほとんど起こらないとは言えませんが)。

生徒のいじめや自殺は公立の中学校で頻発し、私立中学ではほとんど起こらない。

location691「知的幸福の技術 自由な人生のための40の物語」

しかし単純にそうとは言い切れません。今回の調査は「いじめ発生数」ではなく「いじめ認知率」だからです。

「いじめ発生数」から「いじめ認知率」へ

平成18年度分の「問題行動等調査」から、いじめの件数の呼称は 「発生件数」 ではなく 「認知件数」 に改められました。

「いじめ発生数」の調査だと、現場では「数が少なければ褒められる」「数が少ないほど良い」と捉えられ、いじめの隠蔽につながってしまう傾向がありました。

そこで調査内容を「いじめ発生数」から「いじめ認知数」へと変更しました(いじめの定義も「継続的」「深刻な」という基準が撤廃)。

参考いじめの「認知件数」について 文部科学相国立教育政策研究所

いじめ認知数は少ない方が、実際に起きているいじめの数も少ないと類推できる指標ですが、教師が積極的にいじめの把握に努めている指標という側面もあります。

推論2「私立中学校は公立よりも、いじめを認めず、警察にも通報しない」

「いじめの認知率が低い=いじめを把握しようとしていない」と解釈すると「私立中学校は公立よりも、いじめを認めず(ア・イ)、警察にも通報しない(ウ)」と言えます。

この推論では私立でも公立と同じだけのいじめが発生しているにも関わらず、積極的に把握しないので、見かけ上はいじめの認知率が低くなっているだけに過ぎないと考えます。警察への通報率が低いのも軽微なものが多いのではなく、学校側が悪質であっても通報しないからだと読み解きます。

推論1では「いじめ認知数が少ない=いじめの発生頻度が少ない」と肯定的に解釈しましたが、推論2では、いじめの認知数が少ないことを否定的に解釈します。

「認知件数」 が少ない場合、教職員がいじめを見逃していたり、見過ごしていたりするのではないか、と考えるべき。

いじめの「認知件数」について 文部科学相国立教育政策研究所

いじめの発生数が少なければ認知することは難しいので、いじめ認知件数は少なくなります。しかし、いじめが起きているにもかかわらず黙殺してもいじめ認知件数は少なくなります。

いじめの認知件数・認知率が低いというだけでは、いじめが発生していないのか、黙殺しているのかを判断することはできません。

逆にいじめの認知件数・認知率が高いというだけでは、いじめが発生しているのか、積極的にいじめ把握に努めているのかを判断することはできません。

いじめの発生が問題ではない、解決したかどうかが問題だ

いじめがいくら発生しようが問題ではありません。発生しても解決につながっていれば発生そのものはそれほど問題視されなくなるからです。

いじめの解決率についても同様の資料に調査されたデータが掲載されています。

いじめ解決率

完全解消・解消したけど継続支援中・解消に向けて取り組み中に該当しないのが「その他(4)」になります。つまり「その他(4)」は解消という方向性で調整がついていない大問題案件の割合を示しています。

その割合を比較すると、

  • 公立小学校で0.1%
    私立小学校で1.9%
  • 公立中学校で0.2%
    私立中学校で5.8%
  • 公立高校で1.4%
    私立高校で2.8%

小中高いずれでも、公立に比べると私立の方がいじめを解決できていない割合が高いことがわかります(小学校で19倍、中学校で29倍、高校で2倍)。

教育評論家の尾木ママ(本名:尾木直樹)は女性自身(2012)で以下のように述べています。

「私立でいじめ問題が起これば、100パーセントこじれると思ってください。大津の事件のことで、公立校や教育委員会がいじめを隠しているといわれていますが、私立のほうが10倍は隠蔽するし、いじめを解決する力がないんです。私立はトラブルを嫌って、いじめを解決しようとせず、切り捨てる。『地元の小学校に、公立の中学に行ってください』と。そのとき切り捨てるのは、加害者ではなく被害者なんです」

「私立の隠蔽体質は公立より深刻」と娘をいじめ自殺で失った母 – 女性自身[光文社女性週刊誌]

いじめ根絶のための4つの成長段階

学校がいじめを根絶するために成長していくプロセスは4段階あるように思います。

「いじめの認知数は少なく、解決率は高い」(プロセス4)というのが教育現場の求める理想像ですが、そのためのプロセスとして「いじめの認知数は多く、解決率は高い」(プロセス3)という段階を経なければ、いじめの認知数は低くなりません。

✳︎調査では複数の学校のデータをまとめるために「いじめ認知率」を指標としていましたが、ここでは1つの学校が成長していく段階を述べるため「いじめ認知数」という単語を使用します。

プロセス1「いじめ認知数が少なく、解決率が低い」:いじめ把握に対して消極的な姿勢で解決する能力がない段階

プロセス2「いじめ認知数が多く、解決率が低い」:いじめ把握に対しては積極的な姿勢をとるが解決する能力が乏しい段階

プロセス3「いじめ認知数が多く、解決率が高い」:いじめ把握に対して積極的な姿勢をとり、解決する能力も身についた段階

プロセス4「いじめ認知数が少なく、解決率が高い」:いじめ把握に対して積極的だが、長年のプロセス3による介入のおかげでいじめの発生数そのものが減少し、いじめ認知の数が減った段階。

プロセス2の段階はいじめを認知できているにも関わらず、解決率が低いので、世間から非難を轟々と浴びせられてしまいますが、この段階を経ないとプロセス3に移行できる力がつきません。外部から専門家の助力を得るなどして、なるべく早くプロセス2からプロセス3へと組織が成長することが求められます。

プロセス1はプロセス2に比べるとさらに段階的に未熟ですが、いじめ認知数が少ないことを隠れ蓑にしてプロセス2ほど世間から非難されません。プロセス2になることを拒否し、プロセス1のままでいるという、いじめに対して消極的な学校が多い理由はこれです。

解決率を導入して公立と私立を比較する

「私立はいじめ認知率が低いから公立より環境が良い」という意見は、いじめ認知の指標から、プロセス4に私立学校の多くが該当していると判断し、公立学校はプロセス2に該当するという暗黙裡の判断があります。

✳︎以下、前項の「いじめ認知数」を、調査データの「いじめ認知率」という言葉に再び置き換え、私立・公立全般を話題にします。

私立は「いじめ認知率が低く、解決率が高い」(プロセス4)
公立は「いじめ認知率が高く、解決率が低い」(プロセス2)

しかし、いじめ認知率が低いというのはプロセス4だけでなくプロセス1の可能性もありますし、いじめ認知率が高いというのはプロセス2ではなくプロセス3の可能性もあります。

私立は「いじめ認知率が低く、解決率が低い」(プロセス1)
公立は「いじめ認知率が高く、解決率が高い」(プロセス3)

私立はプロセス1か4か、公立はプロセス2かプロセス3かという議論は、いじめの解決率を見ればわかります。

平成28年に公表された平成27年度の調査結果では小中高いずれでも、公立に比べると私立の方がいじめを解決できていない割合が高いことが判明していました(小学校で19倍、中学校で29倍、高校で2倍)。

解決率については、互いの相対的な比較でしか論じられないため注釈つきですが、

私立は「いじめ認知率が低く、公立に比べて解決率が低い」(プロセス1の可能性大)
公立は「いじめ認知率が高く、私立に比べて解決率が高い」(プロセス3の可能性大)

と言うことが調査データから伺えます。

「私立は公立に比べるといじめに対する意識と解決率が未熟」説

調査データから私立はプロセス1、公立はプロセス3とすると、「私立は公立に比べるといじめに対する意識と解決率が未熟」と考えられますが、2つ注意点があります。

1つ目は、解決率の高さなどは学校ごとで大きく違ってくるはずなので、私立が公立に比べて未熟かどうかという議論は、私立と公立の傾向を把握するための統計上の特徴に過ぎないということです。

2つ目は、「いじめの解決率を公立が偽って報告している可能性がある」ということです。

「解消という方向性で調整がついていない大問題案件の割合」は公立小学校で0.1%、公立中学校で0.2%という驚異的な低い数字でした。1000件いじめ問題があったら1件と2件という少なさになります。

この数字をそのまま信じれば、公立は私立よりもいじめ解決率が高いと判断できますが、「ちょっと低すぎないか?いじめ認知率が高いから、解決してないのに解決してると偽って報告してるんじゃないの?」と考えることも可能です。

まとめ

  1. 「いじめ認知率が低い=いじめの発生頻度が少ない」と解釈すると「公立中学校は私立よりもいじめ発生率(ア)・いじめ数(イ)が多く、悪質ないじめ(ウ)が多い」と言える。
  2. 「いじめ認知率が低い=いじめを把握しようとしていない」と解釈すると「私立中学校は公立よりも、いじめを認めず(ア・イ)、警察にも通報しない(ウ)」と言える。
  3. いじめ認知率と合わせていじめ解決率が重要な指標となる。統計上は私立は公立よりもいじめ解決率が低い傾向がある(平成28年発表資料)が、私立のいじめ解決率は学校ごとで大きく異なることが予想され、公立の解決率も申告の通りかは怪しい。


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