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映画「それでも夜は明ける」のネタバレありの感想。
見ていてよくわからなかった言葉、社会的背景について肉付け。
ソロモンノーサップが書いた原題の本「12years a slave」の全文PDFも紹介。
以下、ネタバレあり
目次(クリックでワープ)
あらすじ
黒人音楽家だった主人公が誘拐され、人身売買で奴隷となり、12年間もの間、地獄を味わう話。実話「12years a slave」を基に作られた映画。
評価
2014年米アカデミー賞作品賞を受賞。その他、数多くの映画賞を獲得。
ただ、これは純粋な作品のおもしろさではなく、作品の持つ社会的意義が評価された結果のように思います。
視聴制限
PG12なので「12歳未満の年少者の観覧には、親又は保護者の助言・指導が必要」
かなり残酷な暴力表現、性的表現があるので、個人的には大学生以下は見るとトラウマになるレベルです。
もちろん恋人と視聴、家族と視聴もオススメできません。
「それでも夜は明ける」のうまさ
実話ベースの残酷無慈悲劣悪非道な話なんですが、「うまいなぁ」と感心した点をあげます。
対比がうまい
単にえげつないことをパーンと映像として撮るだけでなく、ありふれた日常の片隅でそれらが行われているという対比を随所に取り入れていました。
例えば、
- お使いを頼まれて森を抜けようとしたら、そこで2人が首吊りで殺される所だった。
- 主人公が木に吊るされて死にそうなのに、誰も気にかけずに時間が経過していく。
などなど、当たり前の日常の中にそうした狂気があるということが、狂気をより一層際立たせていました。
善良な市民が加害者
暴力や犯罪を犯した人たちは根っからの悪人であり、反社会的性格の持ち主。
と、どうしても割りきって考えてしまいたくなるけど、実際はそう単純に割り切れない。
「それでも夜は明ける」で出てくる、奴隷の支配者は聖書を引用する敬虔なキリスト教徒ばかり。宗教心があるにも関わらず、奴隷制度が存在していた当時は残酷な行いをしていた。
つまり、善良な市民が環境が変われば悪人へと簡単に変わってしまうことを強烈に示していた。
音楽が効果的
主人公が歌いながら涙する場面の「Roll Jordan Roll」が印象的でした。
エンドロールに使用するなど、この映画の象徴とも呼べる歌です。
黒人音楽家ということでバイオリンを弾く場面が多いけど、
主人公が嫌々弾く音楽と、魂から歌う音楽。
この対比もまた素晴らしかった。
「それでも夜は明ける」で気になった言葉
自由黒人
映画に「自由黒人」という言葉がよく出てきます。
俺は自由黒人だから解放せよ というニュアンスで。
その意味を調べました。
自由黒人というのは、奴隷ではない。アフリカから奴隷として連れてこられた人々やその子孫のうち、主人からの解放によったり、自らを買い上げたり、または法律の施行などにより、奴隷の身から開放されたアフリカ系の人々をさす。
自由黒人は、「黒人と奴隷は同義語という考え方に挑むことで常に奴隷所有者にとっての象徴的な脅威」と認識されていた。自由黒人は逃亡奴隷の潜在的な結託者と見なされており、「奴隷所有者は自由黒人に対する恐れや嫌悪感をはっきりと証言していた
奴隷だったものが奴隷でなくなった成り上がり黒人=自由黒人。しかし、白人からすると、それは奴隷制度存続の脅威となる存在で疎ましく、裏で奴隷を逃亡させるなどの悪だくみをしていると考えられていた存在。
主人公ソロモンノーサップが白人に誘拐された背景には白人の自由黒人に対する嫌悪感があった。解放してくれと言っても聞く耳をもたないのは「奴隷」と思い込んでいただけでなく、たとえ「自由黒人」であったとしても知ったもんじゃないという白人心理があった。
奴隷から成り上がったと思っているのは自由黒人だけで、白人側からしたら、同じ穴のムジナ。
ファラオの呪い
悪いことをした奴らには天罰がくだるというくだりで「ファラオの呪い」という言葉が出てきました。聞き慣れない言葉だったので調べました。
王家の呪い(おうけののろい、curse of the pharaohs)とは、エジプト王家の墳墓を発掘する者には呪いがかかる、という信仰である。ファラオの呪い、ツタンカーメンの呪いとも呼ばれる。1920年代のエジプトにおいて、王家の谷でツタンカーメンの墳墓を発掘しミイラをとりだしたカーナヴォン卿および発掘に関係した数名らが、発掘作業の直後次々と急死したとされる出来事からこうした伝説が生まれ、現在まで語り継がれている
あれ?たしか天罰くだりで使われた言葉だった記憶があるんですが、間違いかな?この言葉を天罰として使うには微妙に意味がずれている気がする。
矛盾
原作の12years a slaveは1853年に発表されてます(1841年~12年間の出来事)。ファラオの呪いという言葉が生まれたのは1920年代のエジプト。
やらかしてしまってますね。
1841年~1853年に出てくる登場人物が1920年以降に生まれた言葉を使ってます。
ありえません。
おそらく映画化する時の脚本でミスをしたのでしょう。
12years a slave 全文PDF
1853年に発表された原作「12years a slave」
著作権もフリーになっているようなので全文PDFをUPしておきます(英語)
日本語訳も出版されている
12(トゥエルブ)イヤーズ・ア・スレーブ | ||||
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おわりに
ブラットピットがちょい役とかすごい贅沢。
ただ、家族との再会場面やソロモンノーサップのその後の半生を長く上映してほしかった。
辛い場面が長すぎるのでバランスをもうちょっと取って欲しかった。
90点台にしようか迷ったけど、純粋なおもしろさは80点位かなぁ。
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泣いて喜びます。
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コメント
9か月も前の記事にコメントするのも非常識だと思いますが失礼します
「ファラオの呪い」というセリフは脚本の間違いではなく、「黒人の王の呪い」のようなニュアンスだと思います
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「ファラオの呪い」という言葉が既に存在してしまっているので、その意味とは別のニュアンスとして理解するというのはちょっと苦しいですね。
脚本でミスってるか、日本語吹き替えでミスったかだと思います。
例えば70年代の日本映画に「バブル崩壊」という用語は絶対出てくるはずがないというのと同じだと思います。