この記事の読了時間は約10分です。
映画「運命のボタン」のネタバレありの感想とツッコミを少々。
あらすじ
「このボタンを24時間以内に押したら100万ドル(当時のレートで約2億)あげる、でもどこかであなたの知らない誰かが死ぬ」と言ってくる謎のおっさん(シュチュワード)が出現。家族はそれに巻き込まれ…2009年のアメリカ映画。
運命のボタン公式ブログ http://unmeino.exblog.jp/
評価
Amazon、みんなのシネマレビューなどいたるところで酷評されている映画、海外での評価も高くありません。
日本版の映画予告がダサかったり、公式サイトがブログだったりと、かなりのB級映画臭は漂っています。
藤子不二雄Ⓐのコメント
ミステリアスな“箱”が主人公とはおどろき!!
奇想天外な展開で、ラストまで目がはなせない!!
なんで藤子不二雄Ⓐさんからコメントをもらったかというと、運命のボタンを持ってくる謎のおっさん(シュチュワード)が、笑ゥせぇるすまんの喪黒福造と被るからでしょうね。話のストーリー展開とか雰囲気とかが洋楽版「笑ゥせぇるすまん」でした(ラストの理不尽さも真似る必要があったのかという)。
ああああああああああああああああああ
喪黒福造に心のスキマを埋めてもらいたい。 pic.twitter.com/M8Ry5Ifsp4— ORREY@ACCELE LAND/Vo (@Orrey_punks) November 4, 2016
視聴制限
G:年齢を問わず、どなたでもご覧いただけます。
納得できなかった点
主人公たちの運命をねじ曲げるのはフェアじゃない
キャメロンディアス(ノーマ)は教師の特権だった子供の教育費の補助が打ち切られ、夫アーサーは筆記試験でトップだったにもかかわらず、心理テストの結果が原因でNASAの宇宙飛行士試験に落とされます。
アーサーの方は電話先の様子がわからないので、シュチュワードの組織によって操られた結果かどうかわかりませんが、キャメロンディアス(ノーマ)の方は教育費の補助打ち切りを伝える校長が鼻血を出していたので操られていたことが確定しています。
その上で、誰か死ぬけどお金もらえるよ!運命のボタンを押す?押さない?と選択を迫るのは卑怯というか、フェアじゃありません。
学術世界でも認められていないルール違反
学術の世界でも、アンケートの選択肢に事前にどちらかの選択を誘導するようなことはしてはいけないというルール(バイアス効果、キャリーオーバー効果など)があります。
バイアス効果の例)世界的に見て死刑制度を実施している国は少数ですが、あなたは死刑制度に賛成ですか?
散々どん底に突き落としといてから選択を迫って、ボタンを押したら地獄へGo!「実は人間の調査中で、押したら厄介なことに巻き込まれるよぉ〜、ヘッヘッヘ」っていうのはおかしいです。頭がいかれてんのはあんたらの方でしょ。
ラストシーンの謎の二択
映画を見ていて、最も理解できなかったのがラストシーンの二択。
状況の整理
息子(ウォルター)は目と耳の能力を奪われ風呂場に監禁され人質状態、一生目が見えない・耳が聞こえなくなるという瀬戸際。
①「あの100万ドルを手にして楽に暮らせるが、子供の障害は決して治ることがない」
②「ボタンを押した妻を夫が殺せば、子供の能力は元通りにしてやる。ただし、100万ドルは子供が18歳の誕生日まで銀行に預けておくことになる」という2つの選択を迫られます。
強引に解釈しようとしても腑に落ちない
あえて強引に解釈するなら、「どこかであなたの知らない誰かが死ぬ」と言ったけど、それは「自分(あなた自身)」なんだと。
ボタンを押そうか迷っている場面で、夫が「俺のこと知ってる?」ときいた時に「あなた以上に知っている」とキャメロンディアス(ノーマ)が話していたので、それが伏線で、自分のことはよく知らないでしょ?だからボタンを押すと自分(あなた自身が)が死ぬんですよという解釈は成り立つ(ただし、映画内ではボタンを押すと前にボタンを押した人が死ぬことと関連付けられていたので、この解釈もかなり強引)
が、その解釈は二択の②「ボタンを押した妻を夫が殺せば、子供の能力は元通りにしてやる。ただし、100万ドルは子供が18歳の誕生日まで銀行に預けておくことになる」についてのみ適用される話であって、①の子供に障害が残るという選択をした時には成り立たない。
①の子供に障害が残るという条件はボタンを渡された時には一切述べられていなかったので、完全なる後出しじゃんけん。クーリングオフ待ったなし状態。
後出しじゃんけんについて
僕の理解力・想像力では限界があるのでネットの感想を調べまくりました。
そのことについてあまり言及しているサイトはありませんでしたが、質問サイトに参考になる解釈があったので紹介します。改行箇所、線引きは@49hack
ボタンを押すことで、後々恐ろしい選択をしなければならなくなることを警告せずとも、この倫理観と理性によって、人間はボタンを押さない選択をすべき、というのが理想論であり、ボタンの提供者の考えです。
しかしそれでもボタンを押して大金を得ようとするような利己的な人間は、地球を滅ぼしてしまうので駆除すべきである、という考えのもとに、このボタンの実験をしていたのだったと思います。よって、親切にボタンを押すことによる真の結末は教えることはしません。
「警告せずとも」というのは、やはりどう考えても僕は納得できません。
現実世界のことっていちいち説明書きはないので、自分で説明書を見つけたり、書いていく作業を通して、行動を選択していくわけです。そう考えれば多少は理解できますが、作品として見る上では「警告せずとも」に対する許容はできません。
聖書との関連性を意識しすぎ
「運命のボタン」は聖書の話のエッセンスを感じるという指摘があるので、制作側が話のストーリーよりも、聖書との関連性を意識しすぎてしまったのかなという気がします。ラストシーンでも「この世は煉獄」とか言ってましたしね。
そもそも旧約聖書では、神様は無理難題を吹っかけてしょっちゅう人間を試している。人間が堕落してきたと思うと一握りの(神様にとって)善良な人間を除いて、人類を滅ぼしてしまったり。宇宙人の仕業だと思うと「へ?何で?」となるけど、火星人=神様と考えると、聖書的には全く「あり」なわけです。
ラストシーンの妻の選択理由が描かれていない
妻であるキャメロンディアス(ノーマ)は②自分が夫に殺され、息子は元に戻るという選択をします、夫も同様。
息子は健常者だったので、視力と聴力を中途喪失することになれば、息子自身もノーマたちも想像を超える負担となります。普通の親なら息子がそうなってしまう位なら自分が死んだほうがマシと思ってしまうのはわかります。
妻(ノーマ)は障害を持って生きていた
物語中盤に、顔の左半分がえぐれた謎のおっさん(シュチュワード)とノーマが対面で話し合う場面がありました。シュチュワードを初めて見た時、ノーマはあわれみではなく「愛を感じた」と話します。
以下、愛を感じた理由を問われたノーマが話したセリフを吹き替え版の「運命のボタン」から引用します。
「私も足にハンディがあるから。そのせいでこれまでずっと辛い思いをしたし、苦しんできたから。そしてもしそのハンディが顔にあったとしたら、どれほど重く、どれほど深く苦しんだかと思って。あなたの顔を見てその痛みが、私にはわかったの、すぐに。そして、溢れんばかりの愛をあなたに感じられたのは、その時確信できたから、二度と自分をあわれんだりしないって」
このセリフから、ノーマが自分の障害に対する受容を乗り越えてきたこと、他人の傷や障害についても寛容のある精神を持っていることを感じました。
なぜノーマは①を選ばなかったのか
なのになぜノーマが「②息子の障害は残らないが自分が死ぬ、100万ドルは後でもらう」ことを選択したのが理解できません。①「子供の障害は決して治らないが自分は死ななくていい、100万ドルはすぐにもらえる」を選ぶでしょノーマなら。
自分の死ではなく息子の障害の受容の方がノーマにとっては受け入れることはたやすいんじゃないかと僕は思いました。障害=不幸ではないことを知っているノーマだからこそ選択できるのが①なんじゃないのかと。
なぜノーマですら②を選んだのか。そこが全く描かれていなかったことが残念でした。
気になった3つの点
中盤〜後半はファンタジーと現実の境界線が曖昧になり、話が進むので、「運命のボタン」にリアリティを求めるのは酷ですが、どうしても気になった点について。
すぐ箱を開ける
設定が1976年の話なので、テロに対する意識とかが希薄だったとはいえ、得体の知れない誰かが朝の5時に持ってきた謎の箱をすぐ開けるというのはお茶吹きました。
すぐ家に上げる
その後、家に尋ねてきた謎のおっさん(シュチュワード)を夫が家にいないにもかかわらず家に上げてしまうキャメロンディアス(ノーマ)の行動も軽率すぎます。
すぐ家に上げるとか昭和初期の日本ですかこの映画はw
警察の内部文書を娘の旦那にすぐ見せる
夫(アーサー)が嫁の親である刑事バーンズに、渡していた車のナンバープレートについてどうだったか警察に聞きにいく場面。
目の前にあった事件の写真を夫に無防備に渡し、アーサーはノーマが押したスイッチと同時刻に殺人事件が起きたことを知ります。
身内といえども、内部資料をそんな簡単にホイホイ渡しますかね。
この「すぐ〜」3部作が映画を見ていてどうしても気になりました。
「運命のボタン」は縮小版核ボタン
運命のボタンは何をテーマとしているのか。
僕が見ていて感じたのは、「運命のボタン」はアメリカ大統領がアタッシュケースに入れて持ち歩いている「核ボタン」を揶揄しているのではないかということです。「ボタンを押せば、自分の知らない誰かがどこかで1人死ぬが100万ドルもらえる」というのは縮小版核ボタンなんじゃないかと。
核ボタン(核のフットボール)では「ボタンを押せば、自分の知らない誰かが1000万人死ぬが100万ドル×1000万もらえる」と表現できるでしょうか。
戦争で勝った時に得られる権利、戦争が続くことになった時の出費を考慮すると100万ドル×1000万という数字も当たらずとも遠からずと言える気がします。
総評:クソ映画ではない
利己的な選択が身を滅ぼすということを、簡単な設定とぶっ飛んだストーリーで伝えようとした現代版聖書のような映画であり、「選択」という行為をメインにした一風変わった映画でした。1970年代の火星探査バイキング計画との絡み、運命のボタンという面白い設定、サルトルの要素がお洒落にちりばめらて、人生は「箱」であるとする達観話などセンスは感じました。
序盤から中盤はワクワクして見れましたが、中盤から怒涛の展開とファンタジー要素が強くなって見るのがしんどくなり、ラストも「セブン」をパクったかのようなシーンでげんなり。理解困難な部分が多すぎてクソ映画のレッテルを貼られている気がします。
フェアじゃないやり方は誰の共感も得られず、さらにラストシーンの理不尽な選択で見る人を混乱と怒りにいざなってしまいました。
場面の説明を見た人が理解できるようにもう少し丁寧に表現して、ノーマがラストシーンで①を選んでいれば名作映画になれた気もします。設定が面白いだけにもったいなかったです。
この記事をブログ等で紹介する際は下のHTMLコードをコピペしてお使い下さい。
泣いて喜びます。
<a href="http://49hack.jp/movie-thebox-review/">映画「運命のボタン」の感想と解釈とツッコミと。</a>