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文化庁と一般社団法人日本劇作家協会が主催する月いちリーディングに行ってきました。
戯曲は事前の応募・審査によって選ばれています。
戯曲は未発表であること、コンクールに応募していないことが絶対ルール。
参考 Japan Playwrights Association – 月いちリーディング
参考 Youtubeチャンネル 日本劇作家協会「月いちリーディング」
参加することでわかったこと、面白かったこと、不満点などをまとめます。
プロモーションビデオ
参加人数
参加人数はお客さんが約30人、演者・評論家が約10人で合計40人位でした。
広い会場ではないので人でパンパン。
お客さんと言っても@49hackJpみたいなズブの素人は少なめ?で
作家さんや演者さんが多いように思いました。
空席はなく、みんなガチ者のマジでしたw
普通の芝居だとリラックスして見れるんですが
- 客の人数が少ない
- 見た後の感想を期待されている立場
- 素人が紛れ込んでいるという背徳感(参加は誰でもOKと記載あるが)
などなど芝居の観劇とは違う緊張感がありました。
コモンカフェ
6月の月いちリーディング大阪版は中崎町にあるコモンカフェで開催されました。
店主が日替わりで運営したり、ライブスペースとして活用されているというカフェ。
梅田駅から徒歩8分位なのでアクセス抜群。
コモンカフェは地下にあるんですがその途中にあるメッセージがかっこいい。
月いちリーディングの形式について
台本は事前に客には配られない
ブラッシュアップする検討会なので事前に台本が配られるのかな?と思いましたが一切なし。
ゲストの評論家には事前に配られるそうです。
客は
TVの副音声のようなナレーション(ト書き)を聴きながら
白を基調にした衣装の演者さんが台本を見ながら出入りをするのを見て
物語を楽しみます。
物の配置をナレーションで聞いても想像が難しく
肝心の話がすっと入ってきませんでした。
未発表原稿のブラッシュアップなのでしょうがないですね。
自分の瞬間的想像力を鍛えて、情景が目に浮かぶようにしていきたいです。
時間配分
14時45分〜受付開始
15時〜16時25分:戯曲「まん前のプリちゃん」
15分休憩
16時40分〜18時10分:リズラーマン方式でのブラッシュアップ
終了後:交流会
リズラーマン方式とは
リズラーマンというのが外国生まれの検討方法なのか、何なのかは不明。
以下の4段階からなる。
第1段階:観客側からシンプルな感想や意見を発表、出来るだけ良いところを挙げる。
第2段階:作家が自ら気になっていた点などを観客に問い掛ける
第3段階:観客から作家に疑問点や興味をもった点を尋ねる。
第4段階:双方が忌憚のない意見を述べ合う
今回は第1〜3段階に時間が費やされてしまい、肝心の第4段階が短くなってしまったのが残念
終了後には交流会あり
終了後に交流会があるという激アツっぷり。
しかも安い。
ディスカッション終了後、作者、ゲスト、出演者を交えての交流
会がございます。聞き足りなかった事、話し足りなかった事などを話すいい機会かと 思います。
会費は1,000円頂戴致します。お時間あればご参加下さいませ。
(当日、ディスカッション終了後に参加かどうかお伺い致します)申込み後のメール本文より引用
月いちリーディングに参加して気づいたこと
演技は声が大事
演者さんは台本を見ながら話すので本域の芝居ではないんですが
声だけ聞いて、その演技が上手いか下手かがわかってしまうという。
今まで漠然と演技を見てましたが
「声」が演技に占める割合って大きいんだなと思いました。
感想が濃い
作家、評論家だけでなく客側からも濃い意見が続々と出ました。
- そんなとこ見てたんだ
- そういう心情(問題意識・属性)でこの作品を書き上げたのか
- あの場面をそういう風に抽象的に捉えると人物理解が進むんだなぁ
戯曲で楽しんで、ブラッシュアップする場で楽しんで2度美味しい。
戯曲開始から終了まで3時間って長すぎやろと思ってましたが短かった。
芝居の感想は通常、客と評論家しか集まりませんが
月いちリーディングは作者と演者の感想も聞けるというのが超面白い
戯曲の面白さを測る尺度とは何か
戯曲作るならここが大事なんだと知った点
- 会話が起きやすいような設定か、あるいは起きやすくなる切り取り方がされているか
- 人の出入りのさせ方が自然か
- 関係性が単純ではなく複合的な関わり合いが生まれているか
- 観客と演者の視点の後先の逆転性が発生しているか
- 心に残るフレーズがあったか
- 物語の進め方(流し方・重さ・スピード感)が適切か(コメディーなのかシリアスなのかで違ってくる)
- セットアップ(状況説明から事件)までが長くなりすぎていないか
- メインテーマは何かが明確か
- メインテーマへのフリはしっかりできているか
広田淳一さんは陽気
@49hackJpが大好きなアマヤドリ主宰の広田淳一さん。
実は月いちリーディングに参加したのも広田さん目当てなのです!
今までは芝居前の挨拶しか見たことがなかったので堅い印象でしたが
めちゃくちゃ陽気でしたw
テンションは終始高いし、ツッコミもできる。
印象が180度変わりました。
Twitterはかなり深いです、天才です。
直感なんてものに最初から頼っているようでは大した仕事はできまい。研究があって、思考して、言語化して、憧れて、反発して、試行錯誤して、あがいて、その後でしか直感なんてきらめかないものじゃないかしら。直感主義を怠惰の言い訳にするな。いや、自戒を込めてね。
— 広田淳一 (@binirock) June 5, 2019
印象的だったフレーズ
戯曲や検討会で印象に残ったフレーズ
「〜が嘘の限界、○○を書いてしまうと嘘になるから書けない」
「まん前のプリちゃん」の作家である高木由紀さんが話してました。
戯曲は空想の話でいいので、嘘になってもならなくても問題ないんですが
作品を書くにあたって自分のポリシーというか
曲げられないことみたいな境界線があると知れて面白いなぁと思いました。
「下からマウントをとる人」
今回の戯曲の演出家の「ごまのはえ」さんが話してました。
マウントは上から押さえつける意味があるので対照的な文の構造になってます。
相手より下にへりくだることで支配する人という意味合い。
心理学で言う所の「受動攻撃」という言葉と構造としては似ている。
怒りを直接的には表現せず、緘黙や義務のサボタージュ、あるいは抑うつを呈して相手を困らせるなど、意識的無意識的にかかわらず後ろに引くことで他者に反抗する(攻撃する)行動である。
「偉そうに謝るな」
作品の中のセリフ。
見ているときは何も感じませんでしたが、
検討会であのセリフがよかったと言う人がいて
自分の周りにもおるなぁとしみじみと感じた言葉。
いつか使ってみよう。
戯曲検討会の無限なる可能性
マジ者のガチの集まりだったので
- あそこはどうなんだ、
- こーした方がもっといい、
- どんな想いで書いたんだ、
- 作品のその後はどう進むと思った?
- あのチョイスが素晴らしい
などなど議論が止まらない。
臨床心理学のケースカンファとの類似性
月いちリーディングはクライエントの悩みをカウンセラーが検討するケースカンファに議論の構造としてはとても似ていた。
参加者全員が頭が切れて深いことを言える、熱量も真剣さの程度も同じ。
一人の気づき・意見が議論を深める大事な転換点となったりする。
臨床心理学のケースカンファとの違い
臨床心理学と戯曲の検討会の違いは「現実かどうか」
臨床倫理学は座学で空想の事例を扱ったり、詳細をぼかしたりもするが
内々のケースカンファでは「困っている現実の人」の事例を出して検討する。
戯曲は空想の話なので、「現実の話ではないこと」を事例にして検討する。
戯曲は「普遍的でありながら侵襲的要素が少ない」
しかし戯曲の扱う空想の話は「世界のどこかで起こっていること」であり
話の中の「誰か」は「私」かも知れないという普遍的なテーマを内包している。
それでいて話は本当の現実ではないので一定の心理的距離感を取れる。
自己侵襲的要素が少ないので
話に入れ込みすぎて気分が悪くなったり
気持ちが落ち込むことは滅多にない(作家以外w)
戯曲検討会の素晴らしさ
「心理劇(サイコドラマ)」のように芝居の要素を治療に役立てるような方法論もあるけれど
戯曲検討会そのものがすでに治療的機序としての要素があるように思った。
感じたことが人それぞれ違うこと、
人の想いに触れること、
違和感を大切にすること
都合の悪いことは好きに書き換えられること!
日常の生活で生きにくさを感じている人が楽になる要素が詰まっている。
自分の生きにくさ、他人の生きにくさを理解するための能力も磨かれる。
また機会があれば月いちリーディングに参加して、
恥をしのんで交流会にも参加して芝居の奥深さに触れられたらなと思います。
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泣いて喜びます。
<a href="http://49hack.jp/reading-workshop/">未発表の戯曲をブラッシュアップする「月いちリーディング(関西版)」に参加してきた</a>